いろんなことがあっても世界は優しい
旅に出た
もう真っ暗になった空を見ながら
冬の列車に飛び乗って
出来れば夕焼けが見たかった
なんて思いながら
窓に写る缶ビールをじっと見つめて
旅に出た
母が倒れたのは1ヶ月以上前
最初はただの骨折だったのに
どんどん悪くなって
集中治療室まで運ばれて
何本も管が体に通された
ばあちゃん危ないからっ
慌ててやって来た息子に
母は笑顔で言った
ばあちゃんもうきっと煙草吸えないから
ばあちゃん家にある煙草
帰りに寄って持ってきなさい
そんな言葉聞いたら
わたし涙でぐしゃぐしゃになる
お母さん
もう一度煙草吸おうね
お家に帰ろうね
その言葉どおり
母は奇跡的に回復して
さすがに煙草は吸えないけれど
退院できるかもしれない
でも退院しても介護はきっと必要で
今までのようにはいかないよね
そんな気持ちのまま
旅に出た
列車はゆっくり走る
ゆっくりに感じるだけなのかな
隣の席は空席で
通路の向こうに座ってるおじさんは
ホットゆずレモン飲んでいる
音がしないように
そっと缶ビールを開けた
美味しい…
いろんな事があったこの一カ月
母の事だけじゃなく
ものすごくいろんな事があった
帰ってからも
やらなきゃいけない事はいっぱいあって
考えると少し憂鬱になるけれど
いまは
冷たいビールと
ガタンゴトン
列車のリズムと
待っている友達の笑顔が浮かんでくるから
やっぱり
旅に出て良かった・・・
いろんな事 あるよね
生きてると
辛い事も
逃げたくなる事もあるよね
だけど
わたしがわたしを大切にしてあげる限り
きっと世界はわたしに優しい
わたしがわたしを幸せでくるんだ分だけ
きっと世界はわたしを幸せにしてくれる
そう信じて
眠っていても
列車が目的地に運んでくれるように
もがいたり焦ったりしなくても
ちゃんと行きたいところに運ばれていく
わたしたち
みんな
次の日の夕焼けは
こんなに綺麗だった
ほらね