まるで少女みたいに恋をする

毎日は優しい奇跡で溢れてる 一緒に奇跡を見つけませんか

亀は万年

 

亀がほしい

息子がおねだりしたのはいつだったかしら

 

ある日三匹の亀をおみやげに

お爺ちゃんが遊びに来た

 

心のなかで

わぁいらないのに

と思ったけど

ありがとうございます!と

笑顔で亀達を受け取った

三歳の息子は大喜び

一週間くらいね

 

 

水槽の中にじっとしてるだけの亀に

息子はすぐに飽きて

話しかけもしなくなる

 

当然 亀のお世話係はわたししかいない

餌をやって

お水を替えて

ふぅ

ちゃんとお世話したつもりだったけど

すぐに二匹は天国に召されてしまった

息子は泣きもせず

もちろん残った一匹を

可愛がることもせず

変わらずわたしは亀のお世話係

 

亀はどんどん大きくなり

息子もどんどん大きくなって

今度は犬がほしい

と言い出した

犬ならわたしもほしい

 

我が家に仔犬がやって来た

 

仕事して

息子を育てて

犬のお世話してたら

一日はあっと言う間

 

亀はだんだん忘れられていく

 

もちろんご飯もあげたしお水も替えた

たまに見つめると

嬉しそうに寄ってくる

可愛くないわけじゃないけど

可愛くてたまらないわけじゃない

 

それでも亀はどんどん大きくなって

水槽が狭くなってきた

大きい水槽に移してみたら

また亀はどんどん大きくなって

水槽が狭くなる

 

亀って水槽大きくすると

それだけ大きくなるのよ

 

友達の言葉を信じて

それ以上大きな水槽には移さなかった

 

でも亀はどんどん大きくなって

水槽が窮屈そうになってきた

 

そんなある日

近所のおばさんが家に遊びに来た

そして亀をじっと見て

可愛いねーと言った

 

良かったらあげますよ

わたしが言うと

えっ!本当?

 

えっ!本当に?

びっくりしたのはわたしだった

 

ごくごく普通のミドリガメですよ

 

いいのいいの亀好きなのよそれに…

 

 

おばさんは遠慮がちに言った

もっと大きな水槽で育ててあげなくちゃね

 

 

動物好きで有名なそのおばさんに

亀はもらわれていった

息子はふーん良かったじゃんと言った

わたしは亀の水替えから解放されて

ホッとした

 

我が家にいるより幸せだもん

 

さよなら

だあれも名前をつけなかった亀

可愛がられるんだよ

バイバイ

 

 

道でたまにおばさんに会う

亀元気よっ

すごく可愛いの‼

 

酸素付きの大きな水槽を買って

餌は鳥のささ身を食べさせてるらしい

 

我が家では

亀のえさ

を食べさせていた

 

あぁ

幸せになったんだね

 

 

そのうち

噂が聞こえてきた

 

あのおばさん

亀を散歩させてたよ

 

亀の首に紐をつけて

お散歩させてくれてるらしい

 

亀ってのろいんじゃないのか

散歩ってどうやるのかしら

でも甲羅干しにはいいのかも

 

不思議だったけど

まぁ亀は幸せなんだろうと思った

 

何ヵ月かして

また道でおばさんに会った

 

亀元気よー!

すっごく可愛いの‼

 

聞くと

 

 

夜一緒に寝てるらしい

 

 

亀って

 

お水から出していいのか?

 

 

この前は生ハムをあげたのよ‼

 

 

亀って

塩分あるもの食べさせていいのか?

 

 

 

ある夜       夢を見た

 

亀が我が家に戻ってきていた

狭くなったあの水槽の中で

亀は元気に泳いでいた

泳ぐほどのスペースもそんなにないのに

元気いっぱい泳いでいた

 

わぁ亀

家に戻ってきたんだね

そう言ってわたしが近づくと

亀はわたしの方に顔を向けて

嬉しそうに本当に嬉しそうに

わたしの顔をまっすぐ見ていた

 

変な夢・・・

 

 

元気かなぁ

 

 

 

道でおばさんに会った

久しぶりだった

 

おばさんはわたしを見ると駆け寄ってきた

 

 

亀          死んじゃったのよ

 

え?       いつですか・・・

 

 

 

ちょうどわたしが亀の夢を見た頃だった

 

 

 

亀は帰りたかったのかな

狭い水槽でただじっとしている毎日で

毎日おんなじ亀のえさを食べて

それでも

小さな頃から聞こえていた

わたしの声を聞きながら

息子の足音を聞きながら

亀は

 

育てられた家に

 

帰りたかったのかな

 

 

 

亀を大切に飼ってくださって

ありがとうございます

わたしはおばさんに頭を下げた

 

ううん

あんなに可愛い亀をくれて

本当にありがとうございます

 

おばさんも深々と頭を下げてくれた

 

 

わたしの育てた15年と

おばさんに可愛がられた10年

亀はどっちが幸せだったのかしら

聞くことなんて出来ないけれど

 

 

もっともっと

 

 

可愛がってあげれば良かった

 

 

 

 

亀のことを想ってわたしは

 

 

 

はじめて泣いた

 

 

 


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亀は万年って嘘でした

 

 

25年生きて

 

お空へ還っちゃった

 

 

 

 

さよなら

ごめんね

 

 

 

ごめんね