探していた 場所
帯広に来ています
道がひろくて空が青くて
心拡がる帯広
まだ小さかった息子と
お友達親子と帯広に来たことがある
もう10年以上前
小学生になったばかりの子供達
お母さんの私達は同い年
彼女の車に乗せてもらって
彼女と子供は
単身赴任しているパパに会いに
私と息子は
パパに会いにいく彼女達に便乗して
楽しい旅が始まった
でも
久しぶりにパパに会った友達親子は
なかなかお別れしがたくなって…
いーよいーよ
わたしと息子はどこかホテルに泊まるから
そちらは家族水入らずでゆっくりしてー
本当はその日 四人で帰るはずだった
ごめんねごめんね
何度も謝る友達に
気にしないで
わたしは明日もお休みだから
JRで息子とのんびり帰るからー
謝り続ける友達に笑顔で答えて
まだ小さな息子の手をぎゅっ
と握ってタクシーに乗った
四人の楽しい旅から
二人っきりで
帰らなきゃいけなくなった寂しさや
友達には愛するひとがいて
わたしには誰もいない切なさや
パパに会えて甘える友達を
不思議そうにぼんやり見つめる
息子のまっすぐな瞳の美しさや
そんなもので
ぐちゃぐちゃになりながら
さぁ
どんなホテルかな?
二人も楽しいね
明日はずーっと電車に乗るよ
それも楽しみだね
無理矢理
明るく話す私の心は
どんどんどんどん萎れていった
そして
覚えてる
もう夜遅かったからか
その時たまたま暇だったのか
息子と入ったホテルの温泉は
誰もいなかった
まるいお風呂がひとつだけ
入ろうとしたら熱くって
シャワーを湯船まで伸ばして
じゃかじゃかお水をいれた
誰もいなくて
お風呂熱くって
シャワーから出る冷たい水が
体にもかかるから
息子とキャーキャー言いながら
裸で走り回った
わたしは笑っていた
息子も笑っていた
寂しいなーと思いながら
笑っていた
わたしも息子も
あったかく くるんでくれる人が
ほしいけど
そんなことは言っちゃいけないから
笑っていた
そのホテルの思い出は
それ だけ
あれは
どこ
だったんだろう
帯広の
なんてホテルだったんだろう
探してたわけじゃないけれど
時々ふっ と 考えていた
今日
帯広の古いホテルに初めて泊まった
いつも泊まるホテルがあいてなくて
たまたまこのホテルに泊まった
温泉がいいと評判のホテルだから
さっそくお風呂にいった
まだ3時
だあれもいない
お風呂のドアをあけて立ちすくんだ
まあるい湯船
あ
ここ
息子ときたホテルだ
なんにも変わっていない
あの頃のまま
小さい息子が後ろから冷たいシャワー
かけてくるんじゃない?
思わず振り返ったけど
誰も いない
あぁ
ここ だったのか
そうかぁ
このホテルに泊まったのかぁ
部屋も朝ごはんも覚えてない
まるい湯船だけを覚えてる
ううん
まるい湯船と
寂しさ
だけを覚えてる
あの頃の私に伝えたいな
息子はちゃんと大人になって
可愛い彼女ができて毎日 笑ってるよ
私もちゃんと仕事して
好きな時に好きなところに行ける
優しい毎日を送ってるよ
もう
寂しく ないよ
探してた場所
過去の自分を思い出して
今 の私をじっと見つめて
お湯の中でゆらゆら揺れた
胸がしめつけられるような
あの頃の寂しさは
胸に静かにひろがる暖かさに
ゆっくりと
変わっていった
どんなに寂しい思い出でも
わたしの大切なアルバムの一頁
探していた場所で
その思い出を空に還そう
ありがとう
がんばったね
生きてきたね
もう だいじょうぶ