君に ありがとう
23歳の息子は
9月から転勤になり
初めての一人暮らし
バタバタと引っ越して
がらん となった息子の部屋
今日から私も一人なんだ…
しーん となった私の心
でも
彼は帰ってきた
なんでも最後までやり抜く
誠実で真面目で
頑張りやさんの彼が
初めて途中であきらめて
帰ってきた
がらん とした部屋に
また荷物が戻ってきた
もう一度 一緒に暮らせる喜びと
塞ぎ混んでる彼へのイライラも
少しだけ感じながら
私はいっぱい励ました
いっぱいいっぱい励ました
大丈夫
大丈夫
ぜったい大丈夫!!
ありがとう
お母さん
そんな言葉が彼の口から
ラインから
ひんぱんに溢れるようになったけど
彼は 元気にならなかった
ご飯も食べられなくて
夜も寝られなくて
目の下に隈を作って
パソコンに向かい
新しい仕事を探している
そんなに
頑張らないで
しばらく のんびりしなよ
私の言葉に頷きはするけれど
毎日毎日仕事を探してる
ちっちゃな不安が私に生まれた…
もし
このまま
彼が壊れてしまったら
どうしよう
あんなにイキイキと
仕事に取り組んでいた彼が
あんなに毎日
楽しそうに生きてた彼が
もう笑顔を見せなくなったら
どうしよう
ありがとう
なんて言わなくていい
前みたいに
返事も話もしない
無愛想な息子でいいから
ご飯を食べて
ゆっくり眠ってほしい
友達と出かけて
笑ってほしい
ホントにホントにそう祈った
励まして
優しくして
美味しいものを作って
一緒にお酒を飲んで
夜中まで語りあった
ふっ
と元気になるけれど
次の日には
また 遠くを見てぼんやりしてる
眠れずに朝までパソコンを見て
仕事を探してる
わたし
お母さんだけど
なんにもしてあげられないね
そんな気持ちで
友達と飲みに行った夜
私はものすごく酔っぱらって
ふらふらになって家に帰った
息子はいつも通りパソコンと
にらめっこしていた
酔った頭の中で
ぐるぐる言いたい事が
突然溢れ出した
ぐずぐずしてるんじゃないよ!!
大丈夫なんだから
大丈夫なんだよ!!
そんな落ち込んでる奴
誰も採用したくないよ!!
みたいな…事を
言った気がする
酔っぱらった私の中には
思いやり とか優しさ とか
欠片もなかった
言いたい事全部言った
いま
彼は普通じゃないんだから
追い詰めちゃダメだと
思っていたのに
追い詰めるような事
全部 言った
彼は 泣いていた
泣き虫で泣き虫で
いつも泣いていた息子
いつから
君は泣かなくなったの?
大きくなってから
私の前で泣いたのは
初めてだよね…
幸せになってほしいんだよ
お母さん
あんたが幸せになるために
生んだんだからね
そう言って
私は寝てしまった
もう
ただの酔っ払い
二日酔いの体で
のろのろ起きると
台所の食器が
キレイに洗ってあった
息子が洗ってくれたんだな
あー
あんな事言わなきゃ良かった
彼は傷ついただろう
私 最低の母親だわ
起きてきた彼に
謝ると
ううん
もっともな事言ってたよ
静かにそう言われた
そして
その日から
彼は元気を取り戻した
就活の面接に出かけ
友達と会い
ご飯も食べて
眠れるようになった
昨日は友達を家に呼んで
宅建の参考書を買って
勉強を始めた
偶然かもしれない
彼が元気になったのは
まだ
就職が決まったわけじゃないし
また落ち込む時も
来るかもしれない
でも
もしかしたら
私が本音で話したこと
あの夜
彼の心に
何かが 響いたのかもしれない
ひと は 不思議
優しくして
いたわって
励ましても
変わらない
あなたのために
そんな気持ちで
寄り添っても
遠くなる
私が私の気持ちに正直に
まっすぐ伝えた時
心は繋がる
そんな大切なことを
教えてくれた
君に ありがとう
生まれてきてくれて
私のそばに戻ってきてくれて
本当にありがとう
息子は
今日も元気に
面接へ行く