また9月の風に吹かれて
車を飛ばして
あなたと海を見に来た
9月の光りはまだ眩しくて
9月の空はどこまでも蒼くて
また9月が来たね
あなたと出逢った9月
なんにも喋れなかった二人が
なんでも喋れるようになって
わがままも言えるようになって
甘えることも
断ることも出来るようになって
こうして
世界でいちばん居心地の良い人になる
手は繋がなくなったけど
心は繋がってるからね
なんて呟いてみるけど
風の音に消されて
きっとあなたに届かないでしょう
また
9月の風に吹かれて
あなたと歩く
海と空の真ん中
先に歩くあなたを追いかけて
その手を
心ごと握った
奇跡を見つけた
お休みの土曜日
朝早く友達と待ち合わせして美術館
9時半だって
はやすぎるー
なのに
もう満員なの
コミコミなの
美術館ってすごいね
一時間で見終わったわたし達
まだどこも開いてなくて
そばにあった小さな喫茶店に入った
モーニングのメニューを見ながら
すみません
モーニング以外もできますか?
できますよー
ちょっとお時間いただきますけど
優しいお姉さんの声が
小さなお店の中に響いた
わたしはツナサンド
友達はドリア
久しぶりに会った彼女とお喋りに
夢中になっていると
お待たせしました
ツナサンドが運ばれてきた
え?
なんか
すごく美味しそうなんですけど
まず珈琲
うーん
おいしーい
そして
ツナサンドひと口
え?
なんでなんで?
なんでこんなに美味しいの?
バターの加減も
マヨネーズの加減も
パンの柔らかさも
珈琲の酸味も苦味も
わたしの好み100%
友達が
友達の友達の話をし始めたけど
ツナサンドが美味しすぎて
なんにも耳に入らない
このパンは買ってきたものかしら
このツナはわたしの家にあるのと
おんなじ缶詰かしら
なにもかもが美味しい
美味しい
を
わたしにプレゼントしてくれた
今日という時間と
この小さな喫茶店と
ツナサンドを作ってくれた店員さんと
目の前で喋ってる彼女と
美味しい
を
こんなに感じられる自分に感謝して
ありがとう
ごちそうさま
ただ
美味しいだけなんだけど
よく考えたら
この瞬間の すべてが
奇跡
奇跡は
自分が見つけるもの
ひとりでご飯
息子がひとり暮しを始めたのと同時に
わたしもひとり暮らしになりました
母ひとり子ひとり
愛犬は二年前にお空に還ってしまったし
今は
そうね
サボテンと
いくつかのお花と暮らしてる
それでも
おんなじ町に息子が住んでるだけで
顔も見られないけれど
そんなに寂しくないんだ
スープが冷める距離
でも
何かあったら会える距離
ただね
持ってっちゃったんだよなぁ
炊飯器・・・
すぐ買おうと思ったんだけど
外食が多いわたしだから
いらないかぁ
たまーにお家でご飯の時は
パスタ茹でたり
パン買ってきたり
大好きなホットサンド焼いたり
うーん
ホットサンドもあきてきた
よーし‼
久しぶりにご飯を炊こう
土鍋でご飯
最初は強火で
沸騰したら弱火にして
簡単簡単
炊き立てのご飯はツヤツヤピカピカ
炊飯器で炊くより何倍も美味しいー
だから
炊き立てのご飯をラップで包んで
冷凍庫にいれた
息子が帰ってきた時持っていけるように
アパートに帰ったらレンジでチンして
食べられるように
そうして
一膳だけ残ったご飯をおにぎりにして
ゆっくり食べた
窓から入ってくる秋の風を
おかずにしながら
まだあったかぁいおにぎりを
ゆっくりゆっくり食べた
こうして
ひとりに慣れていくんだなぁ
おにぎりが少ししょっぱいのは
お塩つけすぎたからだよね
一緒にくらしてる花がわたしを見て
にっこり笑った
雨の朝 もう一度眠ろう
目が覚めたら
雨の音
昨日の天気予報は曇りって言ってたよね
雨
に
なっちゃったんだ
まだ眠ってる頭の中で
今日の予定を考える
あそこに行って
あの人に連絡して
あ
昨日のメールに返事しなくちゃ
夜は何時に待ち合わせだっけ
そこまで
やーめた
雨の音を聞きながら も少し眠ろう
もう
誰かに朝ごはんを作らなくていいし
もう
慌ててワイシャツを洗わなくていいし
もう
わたしのことだけ考えればいいの
今日やらなきゃならない事は
明日にしたっていい
今日なにかをしなくても
それがたとえ明日出来なくても
大丈夫
だから
雨の音を聞きながら
もう一度
眠ろう
おやすみ
きみはこの雨の中で
仕事しているのかな
世界はぜんぶ仕組まれている
友達が
願い通りにいかない事があって
もうやめた
あきらめた
って言ったの
それは彼女の自由
でも
本当にやめたいの?
あきらめたいの?
ってわたし言ったの
だって彼女
本当はやりたいんだもの
そしたらね
その日の夕方にメールがきたの
やることになりました!
願った場所で願った形で‼
ほらね
世界は優しい
うまくいかないこと
なんでこんな風になっちゃうんだろう
ってこと
それは素敵な展開になるからだよ
世界はぜんぶ仕組まれている
あなたがものすごく喜ぶように
ドラマチックに幸せを感じるように
だから
投げ出さないで
放り出さないで
うまくいかないことがあればあるほど
あなたの願いは叶うから
って
自分にも言い聞かせる
月曜日の
朝
空はまだ曇ってる
もうすぐ
晴れるよ
2018 夏
あんまり調子が良くないなぁ
体も心も
いろんなところが行き詰まってる気がする
今年の夏
少しくらい怠けましょう
ふらり
と
旅に出た
木漏れ日を浴びて
一日に一本しか走らない電車が
行ったばかりの駅に着いて
灯台で風に吹かれて
ずうっと
海を見ながら
旅した
曇り空だけど綺麗
知らない街はみんな綺麗だ
新しい空気がわたしを包んで
勝手に幸せになる
いつもならお酒ばかりの旅なのに
美味しい珈琲を飲んだ
いつもなら立ち止まらない
小さな花畑で
もんしろ蝶をじっと見ていた
若い時には急いでた旅が
だんだんゆっくりになって
今年は時間が止まったみたいに
ひとつひとつの景色が愛おしい
来年はもっと愛しくなるのかな
さ来年はどうなるのかな
わたし
年をとった…
こんなに綺麗な風景の中で
どんなに年を重ねても
変わらない少女のようなわたしを見たくて
また
旅に出よう
どんなにゆっくり歩くようになっても
また
変わらない景色は
変わっていくわたしを
迎えてくれる
寂しくて優しい夕暮れ
昨日
息子が家を出ていった
ひとり暮しするの
やっとね
ちょっと長くいすぎたよね
ううん
一回転勤になったのよ
三年前だったかなぁ
転勤先でいろいろあって
あの時は一週間で帰ってきたの
わたしが寂しさを感じる時間もなかったなぁ
でもね
そのあと
あの子
調子が悪くなって
会社に行けなくなったの
はじめて見た息子の挫折だった
わたしはどんなに働いてもいいから
あの子がまた笑ってくれさえすればいいから
一生わたしが支えることになってもいいから
息子と生きていこうと決めた
そして
冷たい雪が溶ける頃
息子は自分の力で
新しい仕事を探して働き始めた
まだ早いよ
無理しないでよ
しかめっ面しながらそう言うわたしに
大丈夫だから
ボソッと答えて
毎日ちゃんと仕事へ出かけた
わたしは ただ お弁当を作って
シャツを洗ってあげて
あんまり代わり映えしない夕食を作って
息子と暮らした
春が夏に
夏が秋に
息子はゲームをしたり
友達と出かけたり
いつのまにか息子の部屋から
笑い声が響くようになり
また冬が来て春になって三年
昨日
息子は家を出ていった
前と違って
友達がいっぱい来て
楽しそうに引っ越しの荷物を運んで
じゃあね
って
出ていった
わたしの子育てはもうおしまい
あの子は今度こそ大丈夫
前より近いし
いつでも逢えるし
そう思っていたはずなのに
夕暮れになって
ご飯仕度しようとして
あ
息子は帰ってこないんだ と気づく
それならお昼ごはんの残りでいいや
窓辺に座ってぼんやりぼんやり
外を眺める
涼しい風がわたしの髪を揺らして
空が
綺麗
こんな時間に
こんな風に
外を眺めることなんてなかった
いつも
息子のご飯仕度で
野菜を切ったりお肉を焼いたり
こんな風に
風を感じることなんて
家にいる時はなかったのに
これからずうっと
夕暮れを見つめていいんだ
寂しいけれど
優しい夕暮れ
一人ぽっちなのに
あたたかい夕暮れ
息子は今日
何を食べるのかな…
一緒に生きてくれて
ありがとう
離れても
きみのお母さんは
世界に
わたし一人です